2008-07-01から1ヶ月間の記事一覧
リンは散歩から戻ると、庭に走って行って池の水を飲むのが習慣になった。 いつでも綺麗な水が好きなだけ飲めるのは、幸せな事だと思う。 リンに、良かったなと言うと、満足そうに鼻の頭を舐めながら振り返った。 池には毎朝必ず数羽の雀が水浴びに来ている。…
あと少しで昼休みだという頃、京都のキスミから電話が掛かってきた。 こんな中途半端な時刻に掛けてくることはあまりない。 体調はどうかと言うので、至って健康だと答える。 ヨネヤやモチヅキはあれから泊まって行ったのかなど、キスミにしては珍しく、他愛…
今朝電車の中で、隣に座った女性から、すみません。と声を掛けられた。 黒いまっすぐな髪を肩胛骨のあたりまで伸ばした、色の白い女性でちょっとびっくりするくらい綺麗な顔立ちをしている。見たところ二十代半ばくらいだろうか。 きちんとスーツを着ている…
朝の散歩に出たついでに、リンと一緒に豆腐を買いに行く。 教えられた通りの道順を辿っていくと、すぐに分かった。 ちょうど店先で空を眺めている親父さんが、僕に気がついて笑顔になった。 昨日、早速食べたら、あんまりおいしいので今朝も買いに来ましたと…
朝の通勤電車で、また座る事ができた。 学生が夏休みになってからはラッシュが緩和されているので、座っていても向かいの窓から外の景色を眺める事ができる。 外は良く晴れていて、このまま海か山にでも遊びに行きたくなるような天気だった。 しばらく外を眺…
少し残業をして帰ったら、郵便受けに水質検査結果の詳細が届いていた。 細かいデータは斜め読みしたが、要するに飲料水として問題はないということだった。 サカエダさんに、池の水は飲めるんだってと言ったら、リンもサカエダさんも納得したような顔で僕を…
朝の散歩から戻り、朝食を済ませてから土蔵の中身の虫干しにとりかかる。 蔵の中は、おそらく八畳ほどの広さだろう。 中は整頓されているのだが、何が収められているのか詳しくは知らなかった。 学生の頃に何度か、祖父が虫干しするのを手伝ったこともある。…
朝、電車に乗っていて、どうも空いているなと思ったら、学生は夏休みに入っているのだと気がつく。 土曜なので休日の会社も多く、普段に比べると電車の中はかなり空いている。七人がけの席の真ん中に座ることができた。 それでも二駅ほど過ぎた頃には席も埋…
だんだんとお盆が近づいて来たので、会社でもそんな話題が出る。 お盆と言っても、行事としてではなく、休日という扱いでのことだ。 みんな有給休暇を盆休みの前後にくっつける算段をいろいろと立てている。盆休みは八月の十二日から十六日まで。五日もあれ…
夜、イズミヤさんから電話が掛かってきた。 曾祖父のお弟子さんだという人物だ。 お忙しいとは思いますが、一度遊びに来ませんかというお誘いの電話だった。 そういえば、彼が家に来たと祖母に言うのをすっかり忘れていた。 もうひと月ほど前のことになる。 …
朝、散歩に行く前に庭を覗く。 数羽の雀が居るが、キスミやモチヅキたちが言うほどには喧しくない。 それでも、庭に来るのは構わないが、できればあまり大勢で来てくれるなと言ってみた。 リンは不思議そうな顔で僕を見上げている。 会社に行く時に、モチヅ…
連休は終わりだと言ってキスミは昨日帰ったのだが、 モチヅキは、連休中はずっと仕事をしていたのだそうで、今日と明日は休みなのだと言って家に泊まり込んでいる。 ヨネヤも、僕の家から会社に行く方が近くて楽だと言って、泊まり込んでいる。 チカコさんは…
昨日の朝、目が覚めないと思っていたら、熱が出ていた。 特に風邪をひいたわけでもないし、熱以外に自覚症状もなかった。 疲れが出たのだとキスミは言うが、疲れるようなこともした憶えはない。 何か変わったことをしたかと聞かれたので、最近庭の池を掘り返…
夜中に、携帯電話に着信があった。そろそろ寝ようかと思っていたところだった。 出ようと思ったら、切れてしまった。 着信の番号を見たら、数字に混じって「#」や「*」という記号が表示されている。 おまけに、普通の電話番号より長かった。 故障でもしたの…
約束通り、夕方になるとキスミが瓶ビールを手土産にやって来た。 例によって、リンは嬉しそうに出迎えている。 居間に入っても、サカエダさんには気がつかなかった。サカエダさんは、やはり気にしていないようで、僕と目が合うとにこにこと笑っている。 夕方…
リンと散歩から戻り、朝飯を済ませて少しのんびりしていると、父親から電話が掛かってきた。 今日、池の水の調査をすることになったと言う。 僕が留守でも構わないというので、父親に任せることにした。 どうしても家の中に入る必要があるなら、母親が鍵を持…
朝は、昨日と同じく祖母と一緒にリンの散歩に行った。 公園でカンダさんに会ったので、双方に紹介した。 祖母はカンダさんのお爺さんのことを知っていて、ああ、カンちゃんのお孫さん。と頷いている。当のカンちゃんは、すでに鬼籍の人だそうだ。 少し雑談を…
いつものように、早朝から起き出して散歩に行こうとしていると、祖母が座敷から出てきた。 いつもこんな早くに起きているのかと言うので、そうだと答える。 シュウイチが朝雀と一緒に起き出すなんてねえ。と、しみじみ感心されてしまった。 庭の池で、雀が入…
朝、いつものように出勤する。 駅から会社までの道を歩いている途中で、後ろから追いついてきたヨネヤに声を掛けられる。 ヨネヤは人の顔を見るなり、大丈夫か、と言う。 至って元気だと答えると、ここ数日、何か考え込んでいただろうと言われた。 言われて…
朝起きてすぐに、座敷から池を覗いてみる。 池は、昨日の夕方に見た時と同じく、澄んだ水で満たされていた。 水質検査をどうしようかと思っていたら、思わぬ所から解決策が講じられた。 ちょうど会社から戻ってくると、家の電話が鳴っている。 あわてて受話…
朝は夏空で晴れ渡っていたが、気温はそれほど高くなかった。 リンと散歩に行き、朝飯を済ませる頃には、風が出てきて空が曇ってきた。 遠くで雷の音がするから、一雨くるのかと思ったが、ぱらぱらと如雨露で撒いた程度ですっかり止んでしまった。 それでも、…
今朝も庭を見たが、やはり笹の枝は四本とも無事である。 サカエダさんが風鈴ではなく空を見上げているのを見て、なんとなく傘を持って行くことにした。 ヨネヤも傘を持ってきていたので、天気予報はどうだったか尋ねると、夕方近くから雷雨らしいという答え…
早朝から、かなり気温が高い。 庭ではニイニイゼミが数匹鳴いている。 夏になると、一番最初に地上に出てくる蝉だ。 リンは、蝉の音が気になるのか、しきりと庭木の方を探していた。 散歩に行った公園では、もっとたくさん鳴いている。 カンダさんと会ったの…
夜中、眠っていたら、随分激しい風の音が聞こえて、ぼんやり目が覚めかける。 風鈴は、大いに風に煽られている。間断なくチリチリ鳴っているのが聞こえた。 サカエダさんはどうしているだろうかと思ったが、そのまま寝入ってしまった。 朝、庭を見たら、昨日…
夕飯の後で、リンと一緒に座敷で涼んでいると、開いた窓の向こうから、子供の歌う声が聞こえてきた。 幼稚園か、小学校低学年くらいだろうか。 「七夕」を、少し間延びした節回しで歌っている。 そういえば、今日は七夕だったな、と思い出す。 合間に、笹で…
朝から相当に暑い。 あまりにも暑かったので、家中の窓を開け放ったら、途端に涼しくなった。 座敷の窓を開けると、今日も集まっていたらしい雀が、一斉に飛び上がって逃げて行く。 やはり、池があったところに集まっていたようだった。 こう暑いと、雀も水…
早朝、また雀が庭に集まっている。 リンが気にしているが、別に悪さをしている様子もないので、放っておくことにする。 散歩から戻り、座敷の窓から覗くと、もういなくなっていた。 会社からの帰り、駅前に托鉢僧が立っているのを見かけた。 聞くところによ…
朝、散歩から戻って朝食を作る。 居間で朝食を食べながら、サカエダさんとリンに、今日妹が来るのだと言ってみたが、リンは僕の声に耳を一度振り、後は食事に専念している。 サカエダさんは、二度ほど頷いてにっこりと笑っただけだった。 予告通り、九時にな…
朝、散歩に行こうと、玄関の框に腰掛けて靴を履いていたら、あっという間に膝の上にリンが登ってきて、妙に嬉しそうな顔でそのまま立っている。 安定が悪いのか体が揺れるが、バランスを取りながらしばらくそのまま動こうとしない。 何か訴えたいことでもあ…
朝、思いついて庭を覗いてみたが、昨日のように雀の群れがいるでもなく、せいぜい二、三羽が鳴きながら跳ね回っているだけだった。 リンも今日は、庭に興味はない様子だ。 サカエダさんは相変わらず風鈴の側で、僕の挨拶に、にこにこと笑いながら頷く。 会社…