遭遇の事

会社からの帰り道、駅でばったりとタカハシさんに会った。
妙に厚着をしていた。急に涼しくなったから、おそらく電車の冷房対策だろうと思う。
先月は、ビアガーデンで奢ってもらったので、もし今から時間があったらどこかで夕飯がてら飲みませんかと誘ってみた。
タカハシさんは、少し思案していたが、どこか上の空な様子で頷いた。
駅から少し歩いて、おいしい焼き鳥を出す店に入った。
店は珍しく空いていて、四人がけのテーブル席に通された。


最近は仕事上のあれこれで煮詰まっていて困るというような話をしているので、毎日忙しいのかと聞いてみた。タカハシさんは少し笑って、僕ほどではないですよなどと言う。
どこか上の空だったのは、疲れが溜まっているせいだったのだろう。
違う仕事をしているのだから、比べようもないと返すと、静かになってしまった。
何か悪いことを言ったかなと思っていると、肩とか背中とか、凝りませんかと言われる。


確かに仕事柄、肩や背中は凝る。
けれど、早朝と夕方、時には夜になってしまうこともあるが、リンと散歩をするようになってからは随分楽になったと思う。
タカハシさんは、自分の背中の辺りを指さして、ここのところが妙に凝るんですと言う。隣の椅子に移動して少し触らせてもらったら、確かに凝っている。
指先に力を入れて押してみると、ごりごりと固い。なんだか辛そうなので、そのままマッサージをしていたら、タカハシさんに笑われてしまった。
会社員にしておくには惜しい腕前だと言われて、一瞬何のことかと思ったら、マッサージのことだった。


いつものように、話題は本のことになりしばらく盛り上がる。あまり遅くならないうちにと散会する。
帰り際に、飛べそうなくらい背中が軽くなったと言いながらにこにことしている。
少し元気が出たようなので良かったと思う。