豆腐屋の親父さんの事

朝の散歩に出たついでに、リンと一緒に豆腐を買いに行く。
教えられた通りの道順を辿っていくと、すぐに分かった。
ちょうど店先で空を眺めている親父さんが、僕に気がついて笑顔になった。
昨日、早速食べたら、あんまりおいしいので今朝も買いに来ましたと言うと、二度ほど頷いて、それからリンが居るのに今気がついたというように足元を見た。
リンは、昨日の豆腐と同じ匂いがするからか、周囲の匂いを嗅いでいる。
これはカンダさんとこで生まれた子かい、と聞かれたのでそうだと答えた。リンは自分の事が話題になっているのに気がついたのか、親父さんの顔を見上げている。


リンも豆腐を半丁食べたのだと言ったら、冗談だと思われた。
やっぱり、普通犬は豆腐など食べないのだろう。
親父さんは、どれ、と言って店の中に入り、小さく切った豆腐を持って出てくると、リンの鼻先に豆腐を差し出す。できたてでおいしそうだった。
リンは、ちょっとためらって僕の方を振り返ったものの、すぐにぺろりと食べてしまった。
親父さんは、おお本当だと喜んで、結局一丁まるごとリンに食べさせてしまった。


変わった犬だなあ、と感心されながら、僕の分の豆腐を一丁買い、リンの分の豆腐の代金も払おうとしたら、断られてしまった。
その代わり、またリンと一緒に買いに来てくれと言われたので快諾した。
豆腐は半丁をみそ汁に入れ、残りはそのまま冷や奴で食べた。