達磨の笑う事

朝、散歩に行く前に庭を覗く。
数羽の雀が居るが、キスミやモチヅキたちが言うほどには喧しくない。
それでも、庭に来るのは構わないが、できればあまり大勢で来てくれるなと言ってみた。
リンは不思議そうな顔で僕を見上げている。


会社に行く時に、モチヅキも帰ると言って、駅まで一緒に歩いた。
別れ際に、座敷の達磨。と、モチヅキが真面目な顔で言った。
座敷の達磨がどうしたのかと聞き返すと、あれ、笑うぞと言う。
あの小さい達磨のことだろう。どちらかといえばむっつりとした顔をしていたように思うが、笑うとはどういうことだろう。
怒るよりはいいと思う。と、答えると笑われた。
まあ、お前なら大丈夫か。というよく分からない言葉を残して、モチヅキは帰って行った。


会社でヨネヤに、座敷の達磨は笑ったかと聞いてみたが、冗談だと思われてそれきりだった。
それより、チカコさんがモチヅキに礼を言っておいてくれという。モチヅキは帰ったから、今度店に行って直接言った方が喜ぶだろうと言うと、それもそうだと頷いていた。
モチヅキはどうやら、客を増やしたらしい。


夕飯後にリンと散歩に行き、座敷で涼んでみたが、達磨は笑わなかった。
居間に行ってテレビを見ることにした。
その間に笑うかも知れないと思い、小さな座布団ごと達磨を持って居間へ入る。
すると、サカエダさんが珍しく興味深そうに近づいてきて、達磨をのぞき込んでいる。
これは、そこの蔵から本に埋まっていたので助け出してきたのだと説明すると、サカエダさんはにこにことしながら頷いた。いつもより、深々と頷いている気がする。
居間のテーブルの上に達磨を置いて、テレビをつけた。
小一時間ほどして、風呂に入ろうと立ち上がる。いつもは窓際で風鈴を眺めているサカエダさんが、達磨ばかり見ているので、そのままそこに置いて居間を出た。
リンが後をついてくるので、一緒に風呂で洗った。