七夕の夜の事

夕飯の後で、リンと一緒に座敷で涼んでいると、開いた窓の向こうから、子供の歌う声が聞こえてきた。
幼稚園か、小学校低学年くらいだろうか。
「七夕」を、少し間延びした節回しで歌っている。
そういえば、今日は七夕だったな、と思い出す。
合間に、笹でも持っているのか、妙に大きく、さらさら、さらさらという音も聞こえる。
小さな笹飾りでも振り回しているのかも知れない。
たぶん、表の道路を歩いているのだろう、歌と笹の葉が擦れるらしい音は、だんだんと移動していく。


こんな時刻に子供が歩き回っているものかとは思ったが、七夕が晴れている年も珍しいし、どこかで七夕の祭りがあったのかも知れない。
そのうちにまた静かになった。


しばらくして、庭に出てみると、空は晴れ渡って星が見えている。
リンも僕について庭に降りてくる。
それから、道路寄りの、庭の隅でうろうろしていると思ったら、短い笹の枝を銜えて戻ってきた。
先ほどの子供が振り回していたものが落ちたのだろうと見当をつける。
捨て置くのもどうかと思い、池の跡地に一本立ててみた。
近々、池を埋めた土を掘ってみようと思っているので、地鎮祭の真似事だ。
そうしていると、少し離れた所から、またリンが笹の枝を見つけてくる。それを立てると、どういうわけだかもう一本持ってくる。結局、四本の笹の枝が集まって、池の跡には本当に地鎮祭でもするように四本の笹の枝が四角形に並んだ。
それでなんとなく、池の跡地に向かって、掘るよ。と言ってみる。
藪蚊の羽音がしたので、すぐにリンを連れて家の中に避難した。