虫干しの事

朝の散歩から戻り、朝食を済ませてから土蔵の中身の虫干しにとりかかる。
蔵の中は、おそらく八畳ほどの広さだろう。
中は整頓されているのだが、何が収められているのか詳しくは知らなかった。
学生の頃に何度か、祖父が虫干しするのを手伝ったこともある。しかし、その手伝いも全体の作業のほんの一部だったはずだ。
いくら整頓されているとはいえ、色々なものがあるので一日で片づくとは思っていなかったが、特に一階の奥には予想以上に様々なものが仕舞われているようだった。
手始めに二階の一角から取りかかる事にする。


二階には、主に本が収まっている。
僕の背丈ほどの本棚八本と、あとは段ボールや何が入っているのかよく分からない木の箱などもある。
ここの本は、時折持ち出して読んでいるので、ある程度は把握している。
本棚一本分を、庭の木陰に、ベニヤと木材で即席で作った台を置き、その上に並べた。
リンは見張りでもしているつもりなのか、台の脇に座って僕の作業を眺めている。


正午近くまでかかって、ようやく本棚三本分というところだった。
誰かに手伝いを頼めば良かったかとも思ったが、急ぐ事でもないのでのんびり片付けることにする。
雨や風の心配もないようなので、少し休憩することにした。
昼飯を済ませ、リンが少し退屈そうにしていたので、虫干しをしている横でゴムボール遊びの相手になる。投げるほどは広くないので、僕の転がしたボールをリンが銜えて持って帰ってくるという遊びだ。
小一時間しないうちに、持って帰ってくるという部分が省略され、自分だけで遊び始めたので、干していた本を出してきた順に仕舞う事にした。


庭と蔵の二階を何往復かしているうちに、リンもボール遊びに飽きたのか、それとも見張りをするという使命でも思い出したのか、また台の横にちょこんと座って僕の作業を眺めている。
サカエダさんも、窓から時折こちらを眺めていた。
出した本をすべて仕舞い終え、そういえば曾祖父の絵がないか確かめようとしていたのだと思い出し、二階に置いてある、何が入っているのかよく分からない木の箱を開けてみた。
奥の方の五箱を開けたところで、古い和綴じの本が出てきた。開いてみると、筆で描かれたスケッチのようだった。もしかすると、これが曾祖父の絵なのかも知れない。
そうだとしたら、大切なものだろう。今度祖母に確認する事にして、元に戻しておいた。
さすがに少し疲れたので、即席の台を分解して片付け、リンと家に入る。


縁側の窓を開け放って、座敷で昼寝をした。
いつの間にかリンが僕の腹の上に乗っている。重いのと暑いので目が覚めた。
僕が目を覚ましたのに気がつくと、嬉しそうに立ち上がった。
どうやら疲れていたのは僕だけで、リンは遊び足りないらしかった。
少し早い夕方の散歩に出掛けて、ついでに夕飯の材料を買う。


夜、祖母から電話があり、イズミヤさんと会うのは盆休みの初め頃ではどうだろうかと聞かれる。祖父と一緒にこちらに来ると言うので、予定は開けておくと答えた。
それから、今日、土蔵の中身の虫干しを始めた事を伝えた。
案の定、あれを一人で片付けるのは骨だよと言われたので、のんびりやっているのだと言った。
実のところ、祖父も祖母も、土蔵の中に収められているものすべてを把握しているわけではないらしい。全部出したら、絶対に元のようには戻せないとまで言う。
二階の奥から、絵の描かれた古い和綴じ本が出てきたことも伝えた。
曾祖父のスケッチかも知れないので、こちらに来た時に確かめてもらうことになった。
また連絡するといって電話は切れた。