猫とリンの話

朝、散歩に行こうと、玄関の框に腰掛けて靴を履いていたら、あっという間に膝の上にリンが登ってきて、妙に嬉しそうな顔でそのまま立っている。
安定が悪いのか体が揺れるが、バランスを取りながらしばらくそのまま動こうとしない。
何か訴えたいことでもあるのだろうか。
なんだい、と声に出してみる。
そうは言っても、何を伝えようとしているのかさっぱり分からない。
仕方がないので、そのままの体勢でリンの首輪に散歩用の紐をつけた。
リンが玄関戸の方を見るので、つられてそちらを見ると、玄関戸の磨りガラスに、座っている猫らしい影が見えた。


どうやら玄関先に何かいると訴えていたようだった。
リンを下ろして玄関戸を開くと、驚いたような顔で猫が文字通り飛び上がった。
玄関の中で人の気配がすれば、大抵の猫は気がつくと思うのだが、寝ぼけていたのかも知れない。
そう思って見送ると、猫の尻尾が異様に長いのに気がついた。
尾の長い猫はよく見かけるが、その長い尾にもう一本長い尾を付け加えたくらいある。
目の錯覚か、それとも何かそういう風に見える形状のものが結びつけられてでもいるのだろうかと思ったが、確かめる間もなく、猫はそのまま、脇の庭の木戸を潜って行ってしまった。
リンは、猫が座っていた辺りの匂いを嗅いでいる。
どこの猫だろうと呟くと、リンは僕の顔を見上げて、生真面目そうな顔をしていた。


昼休みにカネダさんが「転生」という本を持ってきてくれた。
夜、その本を読んでいると、妹から電話が掛かってきた。
明日は、午前九時くらいにこちらに来るという連絡だった。