達磨の笑う事

朝、散歩に行く前に庭を覗く。 数羽の雀が居るが、キスミやモチヅキたちが言うほどには喧しくない。 それでも、庭に来るのは構わないが、できればあまり大勢で来てくれるなと言ってみた。 リンは不思議そうな顔で僕を見上げている。 会社に行く時に、モチヅ…

モチヅキの話

連休は終わりだと言ってキスミは昨日帰ったのだが、 モチヅキは、連休中はずっと仕事をしていたのだそうで、今日と明日は休みなのだと言って家に泊まり込んでいる。 ヨネヤも、僕の家から会社に行く方が近くて楽だと言って、泊まり込んでいる。 チカコさんは…

熱の事

昨日の朝、目が覚めないと思っていたら、熱が出ていた。 特に風邪をひいたわけでもないし、熱以外に自覚症状もなかった。 疲れが出たのだとキスミは言うが、疲れるようなこともした憶えはない。 何か変わったことをしたかと聞かれたので、最近庭の池を掘り返…

達磨の事

夜中に、携帯電話に着信があった。そろそろ寝ようかと思っていたところだった。 出ようと思ったら、切れてしまった。 着信の番号を見たら、数字に混じって「#」や「*」という記号が表示されている。 おまけに、普通の電話番号より長かった。 故障でもしたの…

キスミの来た話

約束通り、夕方になるとキスミが瓶ビールを手土産にやって来た。 例によって、リンは嬉しそうに出迎えている。 居間に入っても、サカエダさんには気がつかなかった。サカエダさんは、やはり気にしていないようで、僕と目が合うとにこにこと笑っている。 夕方…

水質検査のこと

リンと散歩から戻り、朝飯を済ませて少しのんびりしていると、父親から電話が掛かってきた。 今日、池の水の調査をすることになったと言う。 僕が留守でも構わないというので、父親に任せることにした。 どうしても家の中に入る必要があるなら、母親が鍵を持…

祖母の帰宅の事

朝は、昨日と同じく祖母と一緒にリンの散歩に行った。 公園でカンダさんに会ったので、双方に紹介した。 祖母はカンダさんのお爺さんのことを知っていて、ああ、カンちゃんのお孫さん。と頷いている。当のカンちゃんは、すでに鬼籍の人だそうだ。 少し雑談を…

祖母と家の話

いつものように、早朝から起き出して散歩に行こうとしていると、祖母が座敷から出てきた。 いつもこんな早くに起きているのかと言うので、そうだと答える。 シュウイチが朝雀と一緒に起き出すなんてねえ。と、しみじみ感心されてしまった。 庭の池で、雀が入…

祖母の話

朝、いつものように出勤する。 駅から会社までの道を歩いている途中で、後ろから追いついてきたヨネヤに声を掛けられる。 ヨネヤは人の顔を見るなり、大丈夫か、と言う。 至って元気だと答えると、ここ数日、何か考え込んでいただろうと言われた。 言われて…

池の水の事

朝起きてすぐに、座敷から池を覗いてみる。 池は、昨日の夕方に見た時と同じく、澄んだ水で満たされていた。 水質検査をどうしようかと思っていたら、思わぬ所から解決策が講じられた。 ちょうど会社から戻ってくると、家の電話が鳴っている。 あわてて受話…

池を掘った話

朝は夏空で晴れ渡っていたが、気温はそれほど高くなかった。 リンと散歩に行き、朝飯を済ませる頃には、風が出てきて空が曇ってきた。 遠くで雷の音がするから、一雨くるのかと思ったが、ぱらぱらと如雨露で撒いた程度ですっかり止んでしまった。 それでも、…

傘の事

今朝も庭を見たが、やはり笹の枝は四本とも無事である。 サカエダさんが風鈴ではなく空を見上げているのを見て、なんとなく傘を持って行くことにした。 ヨネヤも傘を持ってきていたので、天気予報はどうだったか尋ねると、夕方近くから雷雨らしいという答え…

暑気の偶然の事

早朝から、かなり気温が高い。 庭ではニイニイゼミが数匹鳴いている。 夏になると、一番最初に地上に出てくる蝉だ。 リンは、蝉の音が気になるのか、しきりと庭木の方を探していた。 散歩に行った公園では、もっとたくさん鳴いている。 カンダさんと会ったの…

地鎮祭もどきの事

夜中、眠っていたら、随分激しい風の音が聞こえて、ぼんやり目が覚めかける。 風鈴は、大いに風に煽られている。間断なくチリチリ鳴っているのが聞こえた。 サカエダさんはどうしているだろうかと思ったが、そのまま寝入ってしまった。 朝、庭を見たら、昨日…

七夕の夜の事

夕飯の後で、リンと一緒に座敷で涼んでいると、開いた窓の向こうから、子供の歌う声が聞こえてきた。 幼稚園か、小学校低学年くらいだろうか。 「七夕」を、少し間延びした節回しで歌っている。 そういえば、今日は七夕だったな、と思い出す。 合間に、笹で…

池の跡の事

朝から相当に暑い。 あまりにも暑かったので、家中の窓を開け放ったら、途端に涼しくなった。 座敷の窓を開けると、今日も集まっていたらしい雀が、一斉に飛び上がって逃げて行く。 やはり、池があったところに集まっていたようだった。 こう暑いと、雀も水…

風鈴の事

早朝、また雀が庭に集まっている。 リンが気にしているが、別に悪さをしている様子もないので、放っておくことにする。 散歩から戻り、座敷の窓から覗くと、もういなくなっていた。 会社からの帰り、駅前に托鉢僧が立っているのを見かけた。 聞くところによ…

妹の話

朝、散歩から戻って朝食を作る。 居間で朝食を食べながら、サカエダさんとリンに、今日妹が来るのだと言ってみたが、リンは僕の声に耳を一度振り、後は食事に専念している。 サカエダさんは、二度ほど頷いてにっこりと笑っただけだった。 予告通り、九時にな…

猫とリンの話

朝、散歩に行こうと、玄関の框に腰掛けて靴を履いていたら、あっという間に膝の上にリンが登ってきて、妙に嬉しそうな顔でそのまま立っている。 安定が悪いのか体が揺れるが、バランスを取りながらしばらくそのまま動こうとしない。 何か訴えたいことでもあ…

電話の事

朝、思いついて庭を覗いてみたが、昨日のように雀の群れがいるでもなく、せいぜい二、三羽が鳴きながら跳ね回っているだけだった。 リンも今日は、庭に興味はない様子だ。 サカエダさんは相変わらず風鈴の側で、僕の挨拶に、にこにこと笑いながら頷く。 会社…

庭の話

早朝、まだ少し薄暗い時刻に、何かをひっかくような物音と、たくさんの雀の鳴き声で目が覚めた。 起きあがって見回すと、リンが寝床にしている毛布の上に、リンの姿が見当たらなかった。襖が少し開いていて、物音はその向こうから聞こえた。 僕は普段、座敷…

雷雨の事

朝起きて窓の外を見ると、薄ぼんやりと曇っている。 昨日の夜中に、随分と遠くで稲光が見えたが、結局、雷らしい現象はこちらに近づいては来なかった。 リンと朝の散歩をして家に戻ると、待っていたかのように雨が降り始める。 まるで夕立のような具合だなと…

蟻の事

朝の散歩から戻って、朝食を済ませ、洗濯までしたのに、それでも家を出る時刻まで、まだ余裕があった。 縁側へ出て爪を切ることにする。 リンが物珍しそうな顔をして、爪を切るのを眺めている。 左手の爪を切り、右手の爪を切り、ついで右足の爪を切ってふと…

日常の事

早朝、公園でカンダさんと会ったので少し世間話。 カンダさんは、リンの母犬と兄弟の子犬を三匹連れて歩いている。一匹は、もらわれてゆく先が決まったのだという。 リンは、カンダさんの連れていた母犬に鼻面をぺろりと嘗められて、何故か目を丸くしている…

客人の事

朝は少し涼しく、リンと散歩に行ってもそれほど汗をかかなかったが、日が高くなるにつれ、だんだんと蒸し暑くなってきた。朝の八時過ぎ、ヨネヤが奥さんのチカコさんと一緒に遊びに行ってもいいかというので、構わないと答えると、それから一時間もしないう…

家の話

僕の曾祖父は、絵を描くことを生業としてきた人物なのだけれど、若い頃はあまり売れなかったのだと聞いている。 亡くなった今でも、それほど有名ではないようだが、それなりに売れているという話も聞いている。 日本画ばかりを描いていたのだが、あまり実物…

リンの無口な事

梅雨がまだ明けていないのを主張するように、今日は朝から結構な降りだった。今朝はさすがにリンを連れて行くのがためらわれた。 結局ひとりで傘をさしていつものコースを回った。 雨で濡れた服や靴などは鬱陶しいのだが、公園の木々は人間とは対照的で気持…

夕方の散歩の話

台風が通り過ぎた影響なのか、今日もよく晴れた。 真っ青に抜けるような空が、そういえば六月はもう夏なのだと思い出させる。 リンは、毛布を敷いた寝床で仰向けになって寝ていたのだが、僕が窓の外を眺めているのに気がつくと、もぞもぞと起き出してきて、…

散歩の事

リンが僕と同じ頃に起きてきたので、一緒に散歩に出掛けた。 台風が通過したせいか、嘘のようによく晴れている。 突然の真夏日に、リンは少し驚いたような嬉しいような、という感じの表情でしばらく玄関先から外を眺めていたのだが、僕が一歩先に出ると、す…

サカエダさんとリンの留守番の事

僕の散歩の習慣も、定着してきたようだ。 子犬のリンに、人肌に温めた牛乳と子犬用のビスケットを用意して、自分も朝食を摂る。 卵焼きを一切れリンに差し出すと、おいしそうに食べた。サカエダさんとリンは相性が良いらしい。 安心して留守を任せられる。会…