雷雨の事

朝起きて窓の外を見ると、薄ぼんやりと曇っている。
昨日の夜中に、随分と遠くで稲光が見えたが、結局、雷らしい現象はこちらに近づいては来なかった。
リンと朝の散歩をして家に戻ると、待っていたかのように雨が降り始める。
まるで夕立のような具合だなと思っていたら、雷までやってきた。
昨夜、どこかで息を潜めていて、突然隠れ場所から躍り出たような唐突さだった。
居間では、サカエダさんが物珍しそうに窓の外を眺めている。
リンは、雷鳴が家全体を覆うような大きさで鳴り響くので、しばらく怯えた様子だったが、僕やサカエダさんが落ち着き払って居るのを見て安心したのか、サカエダさんと並んで稲光を眺めている。
変わった犬だなと思った。

出掛ける時刻になっても、雷雨は続いていて、朝は少しばかり濡れながら会社に到着した。
朝からの雷雨に、社内の人間もどことなく高揚した雰囲気で、普段はあまり話をしない何人かに、挨拶と共に話しかけられたりした。
ただの雨では、こうはならないと思う。
午後には雷も雨もどこかに行ってしまい、すっかり晴れてしまったのだが、交流の発端だけは残る。


朝、会社の玄関先で傘を畳んでいる時に挨拶をしたうちの一人のカネダさんという隣の課の二期先輩だ。なんとなく話がはずみ、なんとなくそのまま、ヨネヤとカネダさんと飲みに行くことになる。
飲み屋からの帰り際に、カネダさんから今日読み終わったばかりだという文庫本を貸してもらった。
「光と影の誘惑」という本だった。