夏休み前日の事

 朝起きると、すでに祖母が朝食の支度に取りかかっている。祖父は、居間でテレビを見ている。
 長くこの家に暮らしていた二人を、家の方も当然のように受け入れているように感じる。それほどしっくりと馴染んでいて、見ているこちらもよく分からない安心感を得るほどだ。
 リンの散歩に行っておいでよ、戻るまでには朝ご飯できているから、と祖母が言う。
 リンは、味噌汁の出汁をとるのに使った煮干しをもらってかじっていた。ひゃふひゃふという湿った面白い音を立てている。
 礼のつもりか、小さくひかえめな声で一声吠えると、僕の方へ走って来た。


 会社に行く前、祖母に、蔵の二階から持ち出した箱を渡した。曾祖父の描いたものなのか、確認してもらうためだ。
 もし、曾祖父の描いたものであれば、それなりに貴重なものかも知れない。


 会社では、昼休みになったと同時にカネダさんが紙袋を提げて僕の部署までやって来た。
 夏休み用の本だそうだ。文庫本が十冊ほど、全部ミステリだという。
 カネダさんはお盆休みに有給休暇を十日もぶら下げて、長期休暇の構えである。土日は休日なので、八月はもう会社に来ないのではないかと思ったら、大丈夫、ちゃんと一日だけは来るから。などとうそぶいている。昼飯は、ヨネヤと三人で蕎麦を食べに行った。


 帰宅すると、祖母が待ち構えていて、箱の中身は確かに半分は曾祖父のスケッチだったそうだ。もう半分は、曾祖父の近くで祖母が子供の頃に描いていた絵で、大層懐かしいものを見つけてくれたと喜んでいた。明日は、イズミヤさんのところへ行くので、曾祖父のスケッチを持って行こうということになった。