夏祭りと金魚の事

お盆休みの前後は、有給休暇を取る人間が多いので、社内がなんとなくガランとしている。
取引先の企業も似たようなものだから、人が減ったからといって、仕事の量が増えるわけでもない。
僕もヨネヤも、お盆休みを長くするつもりはなく、夏休みは会社のカレンダー通りだ。


午前中仕事をしていると、いつでも来て良いなら今日からにする。というメールが妹から届いた。
今日と明日の二日間にかけて、僕の住む家の近くの神社でお祭りがあるから、それに行きたいということらしい。
母が合鍵を持っているから、自分で開けて入って、留守番していてくれてもいいと返信したが、落ち着かないからと僕の仕事が終わる頃に合わせて来ることになった。


夕方の六時頃に、家の最寄り駅で妹と合流する。
夏祭りが余程楽しみらしく、浴衣姿で不釣り合いに大きな鞄を提げている。
見兼ねて鞄を引き受けると、何泊するつもりなのか妙に重かった。


一度家へ帰り、着替えてから今度はリンも連れて神社へ向かう。
僕が支度をしている間に、妹は居間でリンとサカエダさんに再会の挨拶をした後、賑やかに何事か話をしていた。
たぶん、サカエダさんは例のにこにこ顔で頷いているのだろうと、妹の声を聞いていて思った。


神社のお祭りは参道に屋台や出店が連なり、なかなかの賑わいを見せている。
神社の規模はさほど大きくはないが、普段は掃除の行き届いた、居心地の良い場所だ。
僕は、リンがいるから境内に上がるのは遠慮して、妹が縁日を見ている間、神社の周囲を散歩することにした。
晩飯は屋台で適当に見繕ってもらうことにして、妹に資金を渡す。
妹は明日も祖母たちとここのお祭りに来る約束をしているというから、半分下見のつもりなのだろう。
ぐるりと回って、最初の場所に戻ってくると、既に妹が戻ってきている。
右手に、赤い金魚の入った袋をぶら下げていた。左手にも、なにやら袋をぶら下げている。
金魚すくいをしてみたら、生まれて初めて成功したのだという。
池に放しても良いかなと言うので、僕は構わないけれどリンに聞いてみないと分からない、と答える。
金魚が住んでいたら、池の水を飲むわけにもいかないだろう。
妹は律儀にリンの前にかがみ込んで、リンちゃんお家の池に金魚を住まわせてもいい?と聞いている。この子、と言って金魚の入った袋を見せたりしている。
リンは、分かったのかどうなのか、妹の鼻の頭をぺろりと嘗める。僕の方をちらりと見て、また妹の鼻をぺろりと嘗める。
いいってさ、と僕が言ったら、リンはまるで今すぐ家に帰ろうとでも言うように紐をくわえて引っ張った。
まっすぐ家に帰って、金魚の入った袋をそのまま池に浮かべる。池の温度に慣れてもらうためだ。


居間で、妹が買ってきた焼きそばとたこ焼き、それから牛肉の串焼きに焼きとうもろこしを適当にわけて食べる。
妹は、どれも食べたいものだけれど、一人では絶対に食べきれないと言いながらつついていた。


夕飯を済ませてから、金魚を池に放した。
隠れるものが何もないので、とりあえず蔵の中に仕舞ってあった流木を入れておく。
明後日からお盆休みに入るので、何か植えてみようと思う。