烏瓜の花の事

深夜から、降るような蝉の音が、開け放った窓の網戸の向こうから聞こえてくる。
まるでぴったりと蓋でもしたように、風は少しも吹かない。
居間の風鈴が鳴れば、少しはましだろうと思うのだが、団扇であおいでみてもわざとらしいばかりだった。
サカエダさんだけは涼しげな顔で、なんだか少し羨ましい。
うだるような暑さとは正にこの事で、僕もリンも、早くに起き出して散歩に出かけた。
あまりに早くて、外はまだ薄暗い。
川沿いなら少しは涼しいかと思い、そちらに向かってみると、土手の木に絡んでいる烏瓜の花が群れて咲いている。
暗がりで見ると、はっとするような姿の花だ。
じっと見ていると涼しいような気持ちになる。
しばらく見ていたら、蚊の羽音が聞こえたので、あわてて退散した。
秋になったら、真っ赤な烏瓜の実をひとつ失敬して、庭に植えてみようかと思う。


夕方、祖母が電話をかけて来た。
イズミヤさんの家にお邪魔するのは、今月の十二日あたりでどうかと言うので、大丈夫だと答える。
ちょうど、お盆休みの始まる日だ。
十二日より前には、祖父母もこちらに来るつもりだというので、来る前に連絡をしてくれれば、いつでもいいと言っておいた。
リンが僕の隣に座って、聞き覚えのある祖母の声を、耳をそばだてて聞いていた。