カンダさんと柴犬の話

今朝も早く目が覚めたので散歩をした。
ここでやめなければ三日坊主にはならないなと思う。
昨日と同じコースを歩いて、公園を一周して帰ろうとしていたら、犬の散歩をしている女の人に声をかけられた。
髪が短く、大きな目が少し悪戯そうな女の人だった。
多分、二十代前半から真ん中くらいの年齢だろうと思う。
犬は赤い首輪をした柴犬で、利口そうな顔をしている。

その人は、カンダと名乗った。
カンダさんは、散歩を始めた僕のことをここ三日ばかり毎日見かけていると言った。
犬も連れずに毎日同じような時刻に歩き回っていると、どうやら目立つようだ。

運動不足なので三日前から散歩を始めたのだと説明した。
どんな話になるのかと思ったら、カンダさんの家で子犬が生まれたので、もらってくれる人間を探していたらしい。
どうやら僕は、散歩をしながら公園の木や草花を眺めたり、野良猫にちょっかいを出したりしている時にばかり目撃されてしまったのだった。
カンダさんはそれを見て、いい人そうだったからと言って笑った。
僕は結構恥ずかしかった。

幸い僕は、かなり古いながらも一軒家に住んでいるし、庭もある。
たぶんこれからも散歩をするのだろうし、犬が居れば怠けることもできないのでちょうど良いと思った。
ただ、昼間は留守にするし、残業で帰りが遅くなることもしょっちゅうだから、その間犬は寂しい思いをするだろう。少し考える時間が欲しいと言った。
カンダさんは、持っていた小さな鞄から手帳を取り出すと、そこから数枚の写真を取りだして見せてくれた。

そこには四匹の子犬が写っていて、寝ていたりじゃれあっていたり座っていたりと、それぞれの表情を見せている。
その中の一匹、仰向けになってぐっすり寝ている子犬が気になった。

飼う飼わないはともかく、一度見にいらっしゃいませんかと言うので、写真を見ながらなんとなく返事をしていたら、日曜日にカンダさんの家に行くことになった。
カンダさんは名刺を僕に渡すと、それじゃあとお辞儀をして公園の木立に見えなくなった。

帰ってからサカエダさんにそのことを話してみたが、やっぱりサカエダさんは頷くだけで何も言わなかった。

今日も仕事をして、帰りがけに同僚と少し飲んだ。
会社での日常には特に変化がない。
家に帰ると、サカエダさんが窓際にいる。
少し不思議な感じがする。