早朝散歩の事
今朝も早くに目が覚めたので、昨日から始めた早朝散歩に出掛けた。
午前五時二十三分。
風鈴を下げた窓際で姿勢よく座っているサカエダさんにおはようと言うと、昨日と同じように笑顔で頷き返してくれた。
犬の散歩をしている人、ジョギングをしている人、新聞配達や牛乳配達の仕事をしている人。
早朝は意外と人に会う。
僕は近所の大きな公園を一周した。
昨日も今日も、会社で働いている間は不思議とサカエダさんのことは思い出さなかった。
普段と変わらず仕事を片付け、同僚と昼飯を食べたり他愛のない話を交わしたりしているうちに一日が終わる。
残業までこなして家に戻るとサカエダさんはやっぱり窓際にいた。
なんとなく嬉しかった。
サカエダさんは家の中から出ようとしない。
昼間、僕が居ない間はなにをしているのだろう。
僕が夕飯を食べながら今日の出来事などを話すと、興味深そうに聞いていた。
窓を開けておいたら、網戸ごしに風鈴の音が聞こえた。
少し蒸し暑かったのだが、途端に空気がすっとした。
キスミは本当に良い物をくれたと思う。
僕がそう言うと、サカエダさんはまた嬉しそうに頷いていた。