散歩中の事

早朝、リンと散歩をしていると、通り掛かった家の庭先から声が聞こえた。
声の主は男のようで、しまい忘れるとはまったくいまいましい愚か者だとか、このろくでなしだとか、どうやら不満を述べているらしい。
声が聞こえた庭先は、木に阻まれてちらとも見えない。
なんだろうかと思いながら通り過ぎようとした時、ガタンと何かが落ちる音がした。
すると、リンは音に驚いたのか、物音がした方に向かっていつになく鋭く、二度吠えた。
早朝だったので、近所迷惑になるかと慌てたのだが、猫が一匹木の間から飛び出して来たのと、緑色の鳥が一羽飛び去って行った以外は何も起こらなかった。


リンは僕の顔を見上げて、なんだか申し訳なさそうな表情をしているように見えた。
驚いたねと小さく声をかけると、すんと鼻を鳴らす。
庭先で不満を述べていた声も沈黙しているので、そのまま散歩を続けた。